「コンサルは昇進できないと辞めさせられる」。このイメージは、いまも根強く語られます。けれども私たちが日々候補者の方と面談していて感じるのは、現場の運用がかなり変わったということです。結論から言えば、戦略系の一部を除き、いまの日本のコンサルは「Up or Out(昇進か退社か)」よりも「Up or Stay(昇進しなければ、いまの階級にとどまる)」に近づいています。問題は辞めさせられることではありません。昇進が止まったまま在籍が続き、その間に外部から見たときの市場価値が静かに目減りしていくこと。本稿では、種別ごとの肌感と、停滞の見極め方、そして残るか動くかの判断軸を整理します。
Up or Outは、一定期間内に昇進できなければ退社を促す運用を指す言葉です。もともとは限られたポストを上から順に空けていくための仕組みで、専門職のファームに広く根づいてきました。日本のコンサル業界でも、長くこの言葉が業界の象徴のように語られてきました。
ただ、いま私たちが面談で耳にする限り、戦略系の一部を除けば、評価が振るわない方にすぐ退職を促すような運用は、それほど多くありません。多くのファームでは、評価面談や改善支援の期間を挟みながら方向性を確認し、本人の意思を尊重して時間をかけて調整していく形に移っています。「ある日突然」ではなく、「対話を重ねながら」というのが、いまの肌感に近いです。実際、面談で「昇進が止まっていて、このままでいいのか迷っている」というご相談は数多くいただきますが、「辞めるよう迫られている」という切迫した話は、戦略系を除くとそれほど多くは聞きません。
背景にあるのは、コンサルへの需要が長く伸び続けてきたことです。国内のビジネスコンサルティング市場は近年も二桁に近い伸びが続くと見込まれており(IDC Japan, 2025)、企業のデジタル化やAI活用の相談が途切れません。案件が増えれば、各ファームは仕事をこなせる人をできるだけ手元に残しておきたい。この需給の構造が、退社を急がせない方向に働いています。
とはいえ、これは「昇進しなくても安泰」という意味ではありません。むしろ私たちが気にかけているのは、停滞したまま在籍が続いた結果、外に出たときの評価が思ったより伸びていなかった、というケースです。「いつでも動けるはず」と思っているうちに、書ける成果が増えないまま年次だけが進んでいた、という方を、私たちは少なからず見てきました。出るタイミングを意識しないまま時間だけが過ぎると、後の選択肢が静かに狭まっていきます。本稿で繰り返しお伝えしたいのは、ここです。
「アナリストからマネージャーまで何年か」は、ファームの種別によってかなり違います。私たちが面談で見聞きする範囲での目安をまとめます。年数はあくまで一般的なレンジで、入社経路や担当領域、その時々の組織状況によって個人差が大きい点は、はじめにお断りしておきます。
注意したいのは、「マネージャーまで6年」という数字をそのまま受け取らないことです。同じ役職名でも、任される責任の範囲や売上への関わり、見るメンバーの数はファームごとにかなり違います。年数だけを横並びで比べると、判断を誤りやすいというのが私たちの実感です。
毎月、多くのコンサル在籍者の方と話していると、おおまかに三つのパターンに分かれていきます。
昇進していく人は、担当する業界やテーマで「指名で来る案件」を持っていることが多いです。マネージャーになる前から、後輩の育成やレビューに自然と時間を割き、一つ上の役割の仕事を頼まれる前に取りにいっている。評価面談でも、次のロールを具体的な時期とセットで握れています。
停滞しやすい人は、「来た案件をうまくこなす」状態が数年続いているケースです。プロジェクトごとに業界やテーマがばらつき、得意領域を一言で言い表しにくい。評価面談が現状確認で終わり、次の一歩が曖昧なまま時間が過ぎていきます。
早めに動く人は、入社して間もない頃から「思っていた仕事と違う」という感覚を抱き続けていたり、資格やMBA、海外といった学びへの投資の時期を先に決めて動いたりする方が多い印象です。
このうち、外から見たときの評価が伸びにくいのは二つ目の「停滞型」です。年収は階級に応じて上がっていくのに、職務経歴書に書ける成果が同じ階層の繰り返しになり、転職市場で「マネージャー候補」として見てもらいにくくなります。一つの案件で「自分が引っ張った」と言える部分が薄いまま年次だけ積み上がる、という状態です。私たちが面談で職務経歴書を拝見していても、停滞型の方は「担当した」「支援した」という記述が並ぶ一方で、「自分の判断でこう動かし、こういう結果につながった」という主語の立った一文がなかなか出てきません。役職と年収は上がっているのに、語れる物語が薄い。これが、外に出たときの評価とのギャップを生みます。
ただし、停滞そのものを悪いことと決めつけるのは早計です。育児・介護・健康など、事情があって一時的にペースを落とすことは何の問題もありませんし、近年は各ファームともそれを支える制度を整えています。私たちが気にかけているのは、「いま停滞している」という自覚と、「次にどうするか」という打ち手がセットになっているかどうか。そこさえ押さえていれば、ペースを落とす期間も前向きな選択になり得ます。
昇進が止まりかけているかどうかは、いくつかのサインで早めに気づけます。一つ二つなら誤差の範囲ですが、三つ以上が同時に当てはまるときは、構造的に止まり始めているサインかもしれません。
これらは「辞めさせられる前兆」というより、「いまの階級のまま固定される前兆」と読むのが実態に近いと考えています。前述のとおり、いまの日本のコンサルでは退職を急かす運用は限られているので、放っておけば在籍そのものは続きます。けれども、その状態が二、三年続くと、外から見た印象が「シニア層なのに案件を引っ張る経験が薄い人」に固定されてしまいやすい。これが、私たちが繰り返しお伝えしている「塩漬けの時間」の正体です。Outされること自体より、止まったまま過ぎる時間のほうが、市場価値には効いてきます。
一つ補っておくと、これらのサインに気づいたからといって、すぐ転職という話ではありません。サインは「いまの環境で次の一歩を取りにいく余地があるか」を点検するきっかけです。担当業界を意識的に絞り直す、評価面談で次のロールを期日付きで握る、後輩のレビューを自分から引き受ける——こうした打ち手で社内で再び動き出す方も少なくありません。大事なのは、止まっていることに気づいたうえで、残るにせよ動くにせよ、自分で次の手を選べる状態にしておくことです。
最後に、いまのファームに残るか、外に出るか、別のファームに移るかを考えるための問いを並べます。すべて「はい」と言えるなら残って昇進を取りにいく、三つ以上が「いいえ」なら動くことも前提に選択肢を並べ始める、というのが私たちの目安です。
最後の問いだけは、社内の状況とは切り離した「外から見た自分の現在地」の確認です。この感覚は、半年から一年に一度、信頼できる相手との面談で更新しておくと、判断の精度が上がります。
私たちは、いますぐ転職するつもりがない方の面談も日常的にお受けしています。30分ほどお話を伺い、ご経歴を一緒に整理し、必要なら職務経歴書の添削や、想定される面接の練習、条件面の交渉のお手伝いまで、段階に応じてご一緒します。市場での現在地を知っておくことは、残る判断にも、動く判断にも、同じくらい役に立ちます。無理に動かす提案はしません。残る選択肢も含めて、フラットに整理するところからお手伝いします。